やきもの物語

土の話 その1

今日は土の話です。

長い年月をかけて、岩や石が風化し、動植物などの腐敗した養分も併せて堆積して土になります。

土があれば、やきものは全国各地どこにでもあります。美濃から西へ車を走らせてみるだけで、信楽、備前、萩へと、土を採掘した山の地肌が車窓から見られます。

地球上のどこにでもある成分は鉄分で、ほとんどが赤茶色の土の地肌を覗かせていますが、瀬戸、美濃そして有田は、白い山肌が見られます。

美濃山間の鉱山で、採掘あとに雨水が貯まった景色はなんともいえない美しさです。白い土肌にエメラルドグリーンが反射して、宝石のような深い深い美しいグリーンです。

やきものに使う土は、性質から3種類に分かれます。可塑性原料、非可塑性原料、溶媒原料で、これを適量に配合して作ります。

可塑性原料は、形をつくるのに必要な粘性や可塑性がある粘土やカオリンです。乾くと固まり、高温で焼結します。

非可塑性原料は素地の乾燥を早め、収縮を少なくして、ひずみやキレツを防ぐ働きがあります。石英や人工的に焼いた陶器屑を粉にしたシャモット、セルベンがこれにあたります。

また媒溶材原料は、焼成温度を低くする働きがあり、これが溶けて粘土分にとけ込んでゆくことで吸水性の低下、透過性の増加に役立つ。長石、石灰石などです。

 ちなみに、皆さんの家の裏の例えば、田んぼの土でやきものが出来るでしょうか?できないことはないのです。趣味で陶芸をされてる方は、田んぼの土に陶芸材料店で可塑性原料の木節粘土を買ってきて、適当に混ぜて実験してみてください。

余談ですが、田んぼの土には男土=おんど、女土=めんど、があるそうです。粒子が粗く、練りを加えると堅くなるのが、男土。粒子が細かく練ると軟らかくなるのが女土です。できるだけ、深く掘ったところの土で試してみてください。

美濃、瀬戸で産出する土は、可塑性原料の蛙目粘土、木節粘土と溶媒材原料の長石があります。

長石といえば、志野釉の原料です。志野は長石単身の釉薬で生まれました。

長石は同じ東濃地区の瑞浪市釜戸で産出する「釜戸長石」が良質で有名ですが、本来の産地であった釜戸鉱山は既に廃山して産出はありません。資源の枯渇は残念です。今は成分を調整してつくっています。珪酸分の多いのが特長で、黄瀬戸釉などにも向いています。

このほか、花崗岩の半風化物で砂状の砂婆(サバ)も美濃では採れます。

砂婆・・・ゲゲゲの鬼太郎の砂掛け婆みたいな名前ですが、すぐれもので、主に素地用原料として用いています。タイルの成形用にも入っています。木節、砂婆、センベル、長石はタイルの主要な原料です。

また、砂婆を黄瀬戸釉に混ぜると、いわゆる「あぶらげ手」(あぶらげみたいな表面)と呼ばれる茶道で重用されるガサガサっとした高級感のある黄瀬戸になります。

あるとき、市内の山道で「砂婆とるな!」という看板が立っていましたが、それって砂婆のありかが分かってしまうんでは?もしくはよその街から来た人は、砂掛け婆かと思うのか・・・・、いずれにしても奇妙な看板でした。

志野にしろ黄瀬戸にしろ、背景には良質な原料があったからです。このように産出する土の特性から、土地に根付いた伝統的なやきものが誕生しました。

 粘土分、長石、含鉄鉱物、動植物の有機物質を含んだ土が採れる常滑、信楽、備前、益子は粘土だけで成形ができ、焼くと黄色、赤褐色、黒褐色の焼き締まる土の特長をいかした灰かぶりの焼き締めのやきものです。

また陶石の産出が多い、九州の天草、泉山、兵庫県の出石、四国の砥部は磁器物の産地になっています。 それでは、原料からどのような工程を得てタイルになっていくのでしょうか?
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写真は地元の丸美陶料さんの原料ストックヤードです。

次回に続きます。  (Muto)

ものづくりの良心

製品の安全性を考えれば、工業製品がクリアしなければならないのは、規格です。

タイルの統一規格として、日本にはJISの陶磁器質タイル(JIS A 5209 2008)がありますが、それ以上に厳しく社内規格を設けることで優良な製品はできあがっていきます。

タイルを貼ったのち、割れや剥がれが起こってはたまりません。そこで、強度、吸水率、寸法・形状、ねじれや反りなどに明確な規格があり、工場内で建築物件ごとの製品単位で抜き取り検査を行っています。

寸法と形状と一言でいいますが、土を焼くという不安定な工程を経るやきものの特性を考えると、ミリ単位の均一な精度をあげる機械化と技術の進歩は驚愕的です。
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写真は強度を検査しています。タイルの中央に荷重をかけたときの、タイルのスパン1㎝幅1㎝に換算したときの破壊荷重を計ります。

また、吸水率は低ければ低いほど良いのが、外壁や水回りに用いられるタイルの重要な機能です。

寒冷地では含んだ水が凍り、タイルの割れにつながりかねません。JIS規格は3%以下ですが、加納では1%の厳しいものにして製品向上を図っています。

こちらの検査はちょっとおもしろいです。タイルを2時間グツグツと煮沸して、12時間放置し、乾燥したものとの水分含有量を比較してだします。

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これは赤外線水分計

成形前の坏土(=陶土原料)も水分量を赤外線水分計でも計ります。

これは、成形に適した水分量を知るもの。5%を切ると、焼成後にパイ生地のような層ができてしまうのです。

ばち(相対する辺の寸法差)などの寸法はノギスで測ります。

 壁面に貼り付けるときタイル裏面の形状を「裏足」といいますが、剥離防止には重要な部分です。製品の大きさによって異なりますが、例えば45二丁(45㍉×95㍉)裏足の高さも0.7㍉以上と決められています。

形状や厚みに関わるほとんどの寸法は、JIS規格より誤差を厳しくしています。

社内で検査する以外にも、必要に応じて耐摩耗性や釉薬の耐薬品性などの検査は、同町内にある(財)全国タイル検査技術協会へ出しています。

このような安全な製品作りは「ものづくりの良心」だと思います。(Muto)

釉薬と装飾ーその2

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タイル工場の敷地内で日に幾度となく見る風景です。
作っているのは外壁タイルなので、外光での色やテクスチャーの具合を試作タイルで見ています。求める色合いやテクスチャーをだすためには、このときの釉薬屋さんとの打ち合わせが重要です。
とくに、補修タイルで破片からの再現は、使っているであろう原料を経験から予測をたてます。どの傾向の基礎釉(釉薬の話その1参照)に、どの顔料をどれくらい、どんな金属を添付したら、元の破片や作りたい理想に近づくか?使う原料の方向性を釉薬屋さんに提案してみます。テストピースの試験を繰り返して、最終的に釉薬を決めます。 とても手間のかかる仕事ですが、経験による見当が早道でしょう。
志野の人間国宝・荒川豊蔵さんは岐阜県・可児の山奥で桃山時代の陶片を発見し、そこから試行錯誤のうえに「志野」を再現しました。やきものに携わる人は長年の経験から、原材料の見当をつけます。先人の残した一つの陶片から、再現する仕事はロマンを感じます。
再現した釉薬にさらに新しい経験が加えられ、革新的に伝統の技術が伝わっていくんですね。
補修用タイルの場合、時を経過した退色まで、現存する周りと合うように再現します。 しかし、こうして決まった釉薬をかければ、思い通りのタイルが量産できるわけではありません。2~3層に掛けるに、どこにどんなふうに釉薬をかければいいのか?
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開発課長がコンプレッサーによる手吹きで釉薬をかけています。真上から釉薬がかかるように姿勢はまっすぐ、少しずつ移動します。量産ラインの機械を想定してるかのようです。分量を計算するため伝わる職人さんの工夫も見られます。
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加納の現在80歳になる会長は現役の職人さんでもあります。永い職人としての経験と技術の工夫は伝わっています。
建物にも時代に沿った流行があります。過去の建物で多いのは、壁面を微妙なグラデーションで変化を持たせる「3色ミックス貼り」。これを再現するにはテスト用に、1色に最低2色の試作を作ったとしても、6種類の釉薬が必要になります。10現場あれば、日に60色のテストです。
微妙な釉薬の差はわずか、0.0□%の微量な添加顔料や金属で変わるので、的確な原料の指示が完成までの早道になります。
また、釉薬の色だけではなく、表面状の凸凹の形態で見た目の発色は変わります。軽石のような表面のショット面状というのがありますが、鉄粉などの斑点が沈み込んでしまうこともあり、加減が難しいものです。
いろいろなケースに対処するのは職人さんの経験あってのことでしょう。こうして理想の色合いになるまで、試験を繰り返し、釉薬の分量を計算し、量産のラインに移すことができるのです。
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機械による生産ラインの釉掛け  

      (Muto)