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なぜ、早いの?

補修用タイルで、「なぜ、そんなに早くできるんですか?」とお問い合わせ頂きます。
補修用タイルは、過去に建築されたビルやマンションなどのタイル部分の修繕用特注タイルです。建築当時と同じタイルは殆ど作られていませんので、現場のタイルを再現することになります。新品でありながら年月の経過の変化までも再現することがあります。
大方の場合、出荷まで通常3ヶ月、あるいは近似色をさがして妥協するなど時間がかかっていました。ところが、加納では最初の見本による色あわせまで、これまでの平均で7.5日。その後2~3回の見本焼きを提示、OKを頂いてから、本生産、出荷まで3週間から1ヶ月ほどです。
もちろん、複雑な色やテクスチャーなど物によって違いはありますが、それにしても他社より早いので、「なぜ?」という疑問を抱かれるのだと思います。
ひとことで言ってしまうと、専任者を配置したことと、弊社がこれまでも現場に合わせた特注品を多く作ってきた長年のノウハウをもっていることです。
補修用タイルの専任者はお客様から届いたタイル破片を、釉薬、工場ラインへと職人さんに渡し、スケジュールを把握します。マネジメントのような感じをイメージしてください。
職人さんはこれまでの経験から釉薬の見当をつけ、釉薬屋さんに注文します。ここで、釉薬選びに明確な指示ができるのも、早道です。
焼成はトンネル窯で、毎日製品を流して焼成していますから、その中に入れ込んでいきます。窯入れしたテスト見本は、24時間後に出ます。(詳しい工程はブログ「やきもの物語」をご覧ください)
このようにテストを繰り返し、お客さんと打ち合わせしています。お客さんに説明する際に、色の感覚をお伝えするのは難しい時があります。色は言葉ではなかなか表せません。やきものの色は焼成によって中からにじみ出る発色なので、絵の具のように何色と何色を合わせてというような一色で言い表せるものでもありません。元のタイル破片と並べて、誰がみても差がないところまで、見本を作っています。詳しくは補修タイルの製作例にてご覧ください。 (Muto)

釉薬と装飾ーその2

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タイル工場の敷地内で日に幾度となく見る風景です。
作っているのは外壁タイルなので、外光での色やテクスチャーの具合を試作タイルで見ています。求める色合いやテクスチャーをだすためには、このときの釉薬屋さんとの打ち合わせが重要です。
とくに、補修タイルで破片からの再現は、使っているであろう原料を経験から予測をたてます。どの傾向の基礎釉(釉薬の話その1参照)に、どの顔料をどれくらい、どんな金属を添付したら、元の破片や作りたい理想に近づくか?使う原料の方向性を釉薬屋さんに提案してみます。テストピースの試験を繰り返して、最終的に釉薬を決めます。 とても手間のかかる仕事ですが、経験による見当が早道でしょう。
志野の人間国宝・荒川豊蔵さんは岐阜県・可児の山奥で桃山時代の陶片を発見し、そこから試行錯誤のうえに「志野」を再現しました。やきものに携わる人は長年の経験から、原材料の見当をつけます。先人の残した一つの陶片から、再現する仕事はロマンを感じます。
再現した釉薬にさらに新しい経験が加えられ、革新的に伝統の技術が伝わっていくんですね。
補修用タイルの場合、時を経過した退色まで、現存する周りと合うように再現します。 しかし、こうして決まった釉薬をかければ、思い通りのタイルが量産できるわけではありません。2~3層に掛けるに、どこにどんなふうに釉薬をかければいいのか?
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開発課長がコンプレッサーによる手吹きで釉薬をかけています。真上から釉薬がかかるように姿勢はまっすぐ、少しずつ移動します。量産ラインの機械を想定してるかのようです。分量を計算するため伝わる職人さんの工夫も見られます。
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加納の現在80歳になる会長は現役の職人さんでもあります。永い職人としての経験と技術の工夫は伝わっています。
建物にも時代に沿った流行があります。過去の建物で多いのは、壁面を微妙なグラデーションで変化を持たせる「3色ミックス貼り」。これを再現するにはテスト用に、1色に最低2色の試作を作ったとしても、6種類の釉薬が必要になります。10現場あれば、日に60色のテストです。
微妙な釉薬の差はわずか、0.0□%の微量な添加顔料や金属で変わるので、的確な原料の指示が完成までの早道になります。
また、釉薬の色だけではなく、表面状の凸凹の形態で見た目の発色は変わります。軽石のような表面のショット面状というのがありますが、鉄粉などの斑点が沈み込んでしまうこともあり、加減が難しいものです。
いろいろなケースに対処するのは職人さんの経験あってのことでしょう。こうして理想の色合いになるまで、試験を繰り返し、釉薬の分量を計算し、量産のラインに移すことができるのです。
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機械による生産ラインの釉掛け  

      (Muto)

釉薬と装飾の話-その1

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写真のタイルのひとつ一つの釉薬と焼成条件は、皆同じものです。施釉するとき数種の釉薬を2~3層にかけていますが、その濃度と量をかえたものです。次の3つのピースも同じひとつの釉薬で変化をつけたもの。
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こんなに素材感が違ってくるんです。 釉薬の工夫は焼成と同様、やきものの醍醐味です。
オブジェ系の陶芸展に行くと、とても不思議な造形物に出くわします。
例えば、美濃にも国際フェスティバルがあります。 まずは、そのインパクトに、作者は何を表現ているのだろうと思われるかもしれません。
現代美術や彫刻と陶芸の境界ラインはどんどん曖昧になって、交錯しています。しかし、表現に「やきもの」を拠り所とする作者は、素材が陶である必要性と視点がこだわりとなって作品に現れています。
やきものの特性である「土の可能性」、「釉薬の美しさ」、「焼きの変化」のなかで、作者が一番自分の美意識に合点する部分を抽出し、解釈し、ときにはデフォルメして表現しています。素材の特性の限界ぎりぎりのところを可能にするカタチに、「どうやって焼いたんだろう?」と技術に感心します。
翻って、やきもの芸術と産業は切っても切り離せないものだと感じるのです。伝統の技術に、斬新な感覚が加わり、新しい表現技術へと、発展しています。技術と表現の変遷は、陶芸芸術にも、日常で目にする食器にも、家の中の水回りのタイルにも、大きなビルの壁面にも生かされて、同じ共通項があります。
タイル工場のなかで、現場の職人さんと話しているとそのことを感じるのです。
タイルは量産品ですから、一般的に「手作り」のイメージから遠いかもしれません。しかし、商品開発や、建築現場に合わせて作る特注商品、補修の為に過去のタイルを再現するなどの場面では、ほぼ一品生産です。
違いは、量産ラインにかける工夫と、工業製品としての厳しい規格に合わせること、建築基準法を考えなければなりません。大変でしょ~!?
タイルは造形的にはフラットなシンプルなものです。またJIS規格では吸水率や強度が規定であるので、おのずと土の原料も硬質な磁器質に決まってきます。 それゆえ、面状と表面のテクスチャーが表現のすべてになってきます。
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写真は加納の開発課長が試行錯誤して作り上げたタイル面状です。釘でスクラッチしたり、所々に斑点や釉薬のかき分けしたり。その面状は陶彫オブジェの表面のようです。
施釉の工夫は重要です。
釉薬は基本的には三つの性質をもつ成分の原料から成り立っています。
溶かして発色する成分(アルカリ原料)、釉薬の骨格となる成分(酸性原料)、素地に安定的に溶着させる成分(中性原料)です。ちょっとややこしそうですが、すごく乱暴な言い方すると、元は土や石の鉱物と木の灰の化学的性質です。 鉱物や灰の中の化学的成分が火によって化学反応を起こしている・・・なんていうとかっこいい?自然からの原料なので素朴なイメージがやきものにはあるけれど、実は非常に化学的です。
この基本になる釉薬を「基礎釉」といいます。基礎釉に鉄やマンガン、銅、コバルト、クロムなど金属や顔料を微量添加することで、色が変わります。
例えば、美濃の伝統的な釉薬でいえば・・・・。「黄瀬戸」は、長石などの石類と粘土成分と灰からなる基礎釉にわずかな鉄を加え、酸素をふんだんに取り入れる酸化焼成で焼くのです。微量な鉄は黄色に発色します。しかしこれを、酸素を遮断した還元焼成にすると発色は青磁色のようにやや青緑っぽくなります。また、基礎釉を作るときに、性質の異なる鉱物へと種類や量を換えると光沢やマット感、ガサガサな表面と変化させることができます。
そうやっていくと、釉薬には焼成との組み合わせで無限のテクスチャーの広がりがありますが。土と合うのか?釉の剥がれなど「のげる」ことはないか?溶けてダラダラにならないか?あとは職人さんが長年にわたって、得た経験の統計から生まれます。
さて、話をタイル装飾に戻します。 タイルは表面に起伏の形状や斑点などで複雑な模様をつけて装飾とします。 タイルの釉薬には「基礎釉」に顔料を添加することが多いのは、色が安定しやすいからです。
特徴的な基礎釉に通称「ドロ釉」と呼んでるものがあります。エンコーべともいいます。聞き慣れない言葉ですね。どうやら、語源はフランス後で、器の制作でいえば、化粧土のようです。
化粧土は、ボディーの成形に使用した土をドロドロの泥しょうにし、カオリンや顔料を加えたもの。ボディーと共土にするのは密着性を高めるからです。
化粧でボディーを装飾し、模様をつける伝統の技法は、日常の器で目にしますね。日本では「粉引き」,ヨーロッパでは「スリップウエア」です。
良質なエンコーベには成形用の良質な坏土が要ります。 「ドロ釉」は化粧土に媒溶成分の長石を混ぜ、釉薬にしたものです。見た目はマットな少しざらっとした感じながら、長石の働きで素地の吸水率を抑えています。 次回は釉薬と装飾での職人さんの工夫をお伝えします。(Muto)